本研究は新しい神経保護作用の期待できる薬物(大黄の主有効成分であるエモジン)が本当に外傷性脳損傷(TBI)の中枢神経系ニューロンの機能異常を改善し、新しい神経保護薬として効果があるのかについて、TBI実験モデルラットを用いて検討するものである。中等度の液体打撃を頭頂部に与えた1週間後に、海馬核を含む脳スライス標本から電気生理学的手法を用いて海馬CA3-CA1シナプス伝達活動を海馬CA1領域で記録した。高頻度電気刺激によりシナプス伝達効率が促進され、それが長時間続く現象(長期増強;LTP)が起こり、これは記憶や学習の細胞レベルでのモデルと考えられているものである。平成20年度の研究でShamコントロール群に比べて、外傷群においてLTPの程度が有意に減弱し、外傷後早期(10分後)にエモジンの腹腔内投与(10mg/kg)をした群では、Sham群と同等レベルのLTPが起こることが示唆された。本年度はTBIによる細胞脱落の有無、高頻度刺激前の基礎的伝達における入力-出力関係、より低濃度のエモジンの効果、投与時間を遅らせた場合の効果などについて検討した。その結果、TBI後特に細胞脱落はなく、基本的シナプス伝達は外傷群でかえって促進されていることが示唆された。また低濃度エモジン(1mg/kg)の早期投与によりLTP改善傾向がみられ、外傷後4-5時間後にエモジンを投与した群でもLTPは外傷のみの群に比べて改善した。これらのことから、1)外傷後のLTPの障害は機能的な障害であり、エモジンによりこれが改善されること、2)エモジンによるLTP改善効果は、投与時期が数時間後でもみられることから、エモジンは神経保護薬としての有用性が高いことが考えられる。
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