多形膠芽腫の分子標的治療抵抗性関連遺伝子群から、腫瘍の治療耐性において重要な分子を同定することを目的とし、これら遺伝子の発現をヒト悪性神経膠腫臨床検体において確認するため、遺伝子解析による基本的な腫瘍の分類を、当該年度においても引き続き施行した。遺伝子の解析は、IDH遺伝子の変異をダイレクトシークエンスにて、染色体1p19qのLOH(ヘテロ接合性の喪失)をマイクロサテライト解析にて、p53遺伝子の変異をシークエンス解析などを行い同定した。対象は、膠芽腫(GBM)122例、退形成星細胞腫(AA)29例、びまん性星細胞腫(DA)27例、乏突起膠細胞系腫瘍28例、毛様細胞性星細胞腫(PA)4例の合計210例の神経膠腫であった。IDH1変異の頻度はGBM15例(12%)、AA6例(21%)、DA9例(33%)、乏突起膠細胞系腫瘍22例(79%)、PAO例(0%)と合計52例で認め、1例のArg132Cys(C394T)以外の症例においては全てArg132His(G395A)の置換であった。GBMでは二次性膠芽腫にIDH変異の頻度が63%と、原発性膠芽腫の6%と比較して有意に高かった。IDH遺伝子変異は1p19LOHを有する乏突起神経膠腫の94%と高頻度に認め、両異常に相関が認められた。また、p53変異を持つ星細胞系腫瘍では特に低悪性度のものでIDH遺伝子変異を高頻度に認めた。これらの実験とは別に、手術検体を用いた脳腫瘍幹細胞の樹立も引き続き施行し、脳腫瘍幹細胞株候補を約10株以上樹立しており、さらなる性質解析のための検討を行った。これら臨床検体や腫瘍幹細胞は、今後、耐性関連候補遺伝子の発現量を調べる事で、悪性度との相関など非常に有効な基礎データを提供すると考えられる。
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