悪性グリオーマの免疫療法の開発を行った。当初の目的の1つのテモゾロミドによる免疫抑制感情の改善の方は結果を伴わなかったが、もうひとつの目的である悪性グリオーマに対するcytotoxic Tlymphocytes(以下CTL)を誘導する為のペプチドを新たに3種類見つけ出した。新たな免疫療法の選択肢が広がるという意味で意義がある。 さらに、histone deacetylase(以下HDAC)阻害薬が腫瘍細胞のHLA (Human Leukocyte Antigen)発現増強作用があることに着目し、CTLの抗腫瘍免疫を強化する研究を行った。一般的な薬剤は血液脳関門のため脳実質内に到達しにくいことがわかっているため、われわれは、脳内に到達することがわかっている抗てんかん薬に着目した。抗てんかん薬のうちHDAC阻害作用のあるものを調べたところ、バルプロ酸(以下VPA)にその作用があることがわかった。調べた限りでは他のてんかん薬にはその作用は認められなかった。そこでVPAをグリオーマ細胞(YKG-1)に作用させると細胞表面のHLAが増強し、CTL活性も上昇することが示された。この結果は、悪性グリオーマの免疫療法を行う際に、抗てんかん薬を併用する場合は、バルプロ酸を選択することの理論的根拠となりうるため、臨床に直結した非常に意義深い研究である。さらに、これまで発現が低くCTLの標的となりえなかった癌抗原もVPAを併用すれば細胞障害性が増す可能性があり、これまで見逃されていたペプチドも再検討する必要性が生じた。今後の発展性によっては免疫療法の選択肢が広がる可能性も示唆される意義深い結果となった。
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