ラット坐骨神経損傷モデルに対する人工神経架橋と組換えアデノウイルスの注入実験;成ラットを用いて麻酔下に坐骨神経を露出し10mmの欠損を作製した。すでに精製された組換えアデノウイルス液10μ1を近位神経断端にハミルトンシリンジで直接注入し、キトサンチューブで欠損部を架橋した。Rhoのdominant negative type(AdRhoDN-GFP)とRacのdominant negative type(AdRacDN-GFP)の組換えアデノウイルスを5μ1ずつ混合して注入した群(16肢;Rho/RacDN群)、対照としてGFP導入ウイルスのみ(14肢;GFP群)を注入した。8週間後に電気生理学的に経頭蓋的電気刺激一下腿三頭筋筋電図での評価をした後、灌流固定を行った。組織学的にチューブ中央部の薄切切片による再生軸索数の計測と、抗ニューロフィラメント抗体を用いたチューブ接合部の免疫染色を行った。筋誘発電位は、Rho/RacDN群で16肢中12肢(75%)、GFP群は14肢中7肢(50%)で観察された。潜時はRho/RacDN群で有意に短く、振幅は両群で有意差を認めなかった。チューブ中央での末梢性ミエリン数はGFP群(415士103)と比較してRho/RacDN群(平均844±146)で有意に多かった。チューブ接合部近位および遠位部でニューロフィラメント陽性線維の連続性が観察できた。本研究では、組換えアデノウイルスによって坐骨神経損傷部のシュワン細胞や軸索に発現しているRhoとRacの機能が阻害され、神経再生が促進されたと考えられる。現在、注入したウイルスの局在を近位断端周囲、後根神経節、脊髄内に分けて確認している。次年度は、神経トレーサー実験およびin vitro実験を行いRhoとRacの神経再生における役割を詳細に解析していく予定である。
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