今年度は最終年のためin vitro、in vivoともにサンプル数を増やして得られた結果を統計学的に解析した。[In vitro]ラット後根神経節(DRG)を摘出して器官培養を行い、各培養皿にアデノウイルス液を添加して神経突起の伸長および面積を解析した。Rhoのdominant negative typeとRacのdominant negative typeの両者を混合したウイルス液(Ad-Rho/RacDN)を添加すると神経突起の伸長が単独よりも長くDRGの直径と面積で統計学的に有意差を認めた。RhoとRac両方の活性を抑制することで神経突起伸長促進効果が得られた。[in vivo]ラット坐骨神経切断モデルを作製してRhoとRacの神経再生効果を検討した。近位神経断端にAd-Rho/RacDNを直接注入し、人工チューブで欠損部を架橋した(Rho/Rac群)。同量のGFPアデノウイルスを注入し同様に再建した対照群を作製した。8週間後に電気生理学的に経頭蓋的電気刺激-下腿三頭筋筋電図での評価をした後、灌流固定を行った。チューブ中央部の薄切切片による再生軸索数の計測と、抗ニューロフィラメント抗体とS100抗体を用いて組織学的に評価した。筋誘発電位は、対照群と比較してRho/Rac群で多く観察された。さらに潜時は対照群より有意に短く運動神経の再生が促進されていた。 チューブ中央でのミエリン数も対照群より有意に多く、免疫染色では、ニューロフィラメント陽性の神経軸索周囲にS100陽性のシュワン細胞が観察された。いずれのアデノウイルスもGFPが導入されていて組織切片を蛍光顕微鏡で観察したがGFP陽性細胞は認められなかった。注入2週目では、坐骨神経近位にGFP陽性細胞を認めシュワン細胞と共陽性であった。Rho、Rac活性を抑制するアデノウイルスの効果は、2週間程度あるが本研究で神経再生の促進を図ることができた。神経再生過程においてアデノウイルスが神経軸索よりもシュワン細胞に多く感染していたことからシュワン細胞の役割が重要である。今後、シュワン細胞だけでなく損傷軸索にも作用する薬剤の開発によってさらなる神経再生の促進が見込まれる。
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