研究概要 |
当科では原発性の脊椎悪性腫瘍や脊椎転移癌に対し腫瘍脊椎骨全摘術(高度先進医療)を行っている。術前の脊椎分節動脈塞栓術により術中出血量を明らかに減少させることができ、この術式では術中の脊椎分節動脈の結紮が必要になる。本研究の目的は、胸腰髄の主要栄養血管であるAdamkiewicz動脈の高位において、両側何対の脊椎分節動脈の結紮が虚血性脊髄障害を引き起こしうるかを脊髄血流量の変化と脊髄機能を評価して検討することである。 本研究では各実験後に動脈造影を行い、第5腰髄(L5)高位にAdamkiewicz動脈が存在した犬のみを対象として採用した。15匹の犬をコントロール群(結紮なし) (n=3),両側1対結紮群(L5) (n=3),両側2対結紮群(L4-5) (n=3),両側3対結紮群(L4-6) (n=3),両側4対結紮群(L3-6) (n=3)の5グループに分けた。これらの5グループにおいて、分節動脈結紮後10時間までの脊髄血流量と脊髄モニタリング(SCEP,CMAP)の測定を行った。 脊髄血流量は、それぞれのグループにおいて結紮直後から6時間後まで血流は経時的に低下し、その後はほぼ一定に保たれた。結紮10時間後の脊髄血流量は両側1対結紮群:76.1%、両側2対結紮群:66.6%、両側3対結紮群:61.4%、両側4対結紮群:52.5%であった。両側1対、2対、3対結紮群では全例、結紮直後から10時間後までSCEP、CMAPともに正常値を示した。両側4対結紮群では3匹中1匹において異常値を示した。 以上より犬におけるAdamkiewicz動脈の高位を含んだ4対以上の両側分節動脈の結紮は虚血性脊髄障害を生じる可能性が示唆された。
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