1.研究目的; 滑膜肉腫は比較的頻度の高い肉腫の一つで、肺転移、リンパ節転移をきたすこともあるため、腫瘍発症機序の基盤的解明は重要な課題である。本腫瘍に特異的な染色体転座が同定され、第18染色体上のSYT(SS18)遺伝子とX染色体上のSSX遺伝子の融合型遺伝子SYT-SSXが滑膜肉腫の95%以上で検出されることが明らかになり、我々はこれまでに当遺伝子産物が相互作用する標的蛋白を同定した。本申請では、染色体転座により生じたSYT-SSX蛋白複合体が直接作用し発現を抑制している遺伝子を同定することを目的としている。 2.実施計画; SYT-SSX蛋白複合体が直接結合しているプロモーターの検出;SYT-SSX蛋白は蛋白・蛋白相互作用を介して、遺伝子プロモーターに結合し、遺伝子発現を異常にすることで腫瘍化を引き起こしていると考えられている。我々は、染色体免疫沈降法CbIPライブラリー解析することにより、SYT-SSX蛋白複合体が直接結合しているプロモーター群の同定を行った。 3.研究成果; 滑膜肉腫細胞の細胞抽出液よりSYT、および、SSXに対する抗体を用いた染色体免疫沈降法(ChIP法)を行った。沈殿物にはSYT-SSX蛋白複合体が結合している標的遺伝子プロモーターが含まれる。そこで、DNA断片を回収後、ライブラリーとしてベクターにクローニングし、シークエンス解析を行った。SSXのN末に対する抗体を用いて92種のSSX標的遺伝子を、SSXのC末に対する抗体を用いて48種のSSX標的遺伝子を、SSX全長に対する抗体を用いて112種のSSX標的遺伝子を、SYTに対する抗体を用いて83種のSYT標的遺伝子を見いだした。さらに共通遺伝子を絞り込んで標的遺伝子をエピジェネティック関連遺伝子群、蛋白合成関連遺伝子群、代謝関連遺伝子群、ミトコンドリア関連遺伝子群、膜蛋白群、細胞増殖因子群等に分類を行った。
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