研究概要 |
本研究は,テロメラーゼ阻害剤による新しい骨・軟部肉腫の治療法の開発を目的としている,In vitroで骨肉腫細胞に対するテロメラーゼ阻害剤(TMPyP4:コスモバイオ)の抗腫瘍効果を検討した. 1.腫瘍細胞に対するテロメラーゼ抑制による抗腫瘍効果 ヒト由来骨肉腫細胞(テロメラーゼ活牲を有するHOS, MG63および活性のないU20S, SaOS2)にテロメラーゼ阻害治療(100umol)を行い,2日および4日後に細胞増殖能試験(MTT assay)を行った.投与2日目では有意差を認めなかったが,HOS(p=0.0001),U20S(p=0.0003),SaOS2(p=0.0003)ともに投与4日目で有意な細胞増殖抑制効果を認めた.MG63では抑制傾向にあったが有意差を認めなかった(p=0.1085). 2.テロメア長の測定 骨肉腫細胞のDNAを抽出,処理後サザンハイブリダイゼーションを行った.テロメラーゼ阻害剤(10,50,100umol)投与後4日目ではいずれの細胞も濃度依存性に5.0-8.6kbpまでテロメア長が短縮した. 3.テロメラーゼ活性の測定 テロメラーゼ阻害剤(各1,10,50,100umol)を投与しTelomeric Repeat Amplificdtion Protocol(TRAP法)に準じて測定した.テロメラーゼ活性を有するHOSでは3-6%,MG63では0-3.2%の活性値の減少を認めたが,各投与量で有意差はなかった.テロメラーゼ活性を有さないU20SおよびSaOS2では活性に変化を認めなかった. 以上の実験結果より,骨肉腫細胞株においてテロメラーゼ阻害剤は,テロメラーゼ活性に対しては有意な影響を与えていないことがわかった.しかし阻害剤投与によりテロメア長は短縮し,HOS,U2OS,SaOS2において有意な細胞増殖抑制を示した.テロメラーゼ阻害剤(TMPyP4)は,癌腫と比較しテロメラーゼ活性が低値である骨肉腫細胞において,活性低下作用よりもテロメア長短縮により細胞増殖抑制作用を呈している可能性が高い.本実験結果が,テロメラーゼ活性に依存しないテロメア維持機構を持つ肉腫細胞に対する,テロメラーゼ阻害剤の細胞増殖抑制作用の解明に重要な鍵となる可能性がある.
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