手同種移植が臨床応用され10年が経過し、症例の詳細な分析から手同種移植特有な問題がいくつか指摘され始めた。その問題点の1つに、他人の手をもらった患者は新しい手を“Alien Hand"と意識し長期を経過してもその意識が拭い去れず、いつまででも精神的な苦痛が伴っていると聞く。つまり、移植手の長期将来的運命、たとえば移植手の細胞置換現象や慢性拒絶などの問題が全く解明されていないという問題がある。これらの問題点についてはこれまで動物を用いた実験的研究が全く注目されていなかった。我々の研究チームはこの移植四肢の細胞置換課程を解明するため平成13、14年に科学研究費を頂きラットを用いた実験的研究を行い後述の数編の英文原著論文を記した。(2005年論文発表)この実験系ではラットの後肢を性別の異なる間で同種移植を行い、雄総胞のみが持つY染色体を特異的に定量解析するPolymerase Chain Reaction(PCR)法を用いた。しかし、この方法ではDNAの発現量を電気泳動上のBandでしか見られないため病理組織学的な検索は不可能であった。そこで、我々はドナーとレシピエント細胞の認識を組織学的に行う目的で、数種類のTransgenic(Tg)ラットを自治医大から譲与準備した。GFPラットはクラゲの遺伝子がTgされておりUVライト下で緑色に発色し(2007Preliminary Paper)、LacZラットはX-gal染色で青色に発色し、蛍ラットは黄色に自家発色する。それぞれの発色量に臓器特巽性があり異なるので、対象臓器に合わせてTgラットを使用する事とした。
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