研究概要 |
本研究は,酸化チタン(TiO_2)の光触媒作用を利用して,術後感染の効果的な予防と有効な治療を実現することを目的としている。生体金属(チタンとステンレス)にTiO_2薄膜処理を行うと,紫外線照射によって強力な酸化力を発揮し,付着した細菌を死滅させることができた。また,水溶性のTiO_2微粒子を開発し,この抗菌性を評価した結果,同様に高い抗菌性を発揮した。更に,両者を組み合わせた場合,相乗効果を発現し,紫外線照射30分で細菌はほぼ完全に死滅した。牛血清アルブミンを添加した富栄養状態での評価でも,コントロールでは細菌が増殖したのに対し,TiO_2水溶液群では有意差をもって生菌率を抑制した。次に,TiO_2微粒子のpHを調整することで吸光スペクトルを可視光領域へ拡大することに成功した。これによって,弱い蛍光灯の光でも60分以上照射することでコントロール群よりも有意に殺菌することが証明された。そして,こうした抗菌・殺菌性を示すTiO_2の生体内での効果を調べるため,ラットの創外固定感染モデルにおけるピンの刺入部感染に対する有効性をin vivo実験で評価した所,未処理ピン群では,全例に刺入部周囲の感染徴候を認めたが,TiO_2群の87.5%には全く認めなかった。病理所見において,未処理群では軟部組織に炎症細胞の浸潤と膿瘍性変化がみられ,骨組織が一部融解し,刺入部から骨髄内まで細菌が侵入していたが,TiO_2群では細菌や炎症細胞の浸潤はほとんど認められなかった。TiO_2の生体毒性について,周囲の皮膚,筋肉,骨組織試料を観察したが,炎症性細胞浸潤や異物反応はほとんど見られず,骨融解や偽膜組織の形成は認められなかった。TiO_2は紫外線などの光によって強力な酸化力を発揮し,付着した細菌を死滅させることができる。また,化学的にも安定しており,極めて毒性が少ない。しかも,耐性菌を誘導せず,菌体のみならず養分や毒素も分解する特徴があるため,種々の感染症疾患の予防・治療への応用が期待される。
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