研究概要 |
本研究は,酸化チタン(TiO_2)の光触媒殺菌活性を利用して,整形外科における感染の効果的な予防と有効な治療を実現することを目的としている。 TiO_2薄膜:生体用金属(チタン,ステンレス)基板にTiO_2薄膜処理を行うと,紫外線(UV)照射によって強力な酸化力を発揮し,付着した細菌の生菌率を低下させることができた。次に,創外固定ピン刺入部感染に対する有効性と生体内での異物反応を調べるため,ラットモデルによるin vivo実験を実行した。非TiO_2ピン群は20本中19本に感染徴候を認めたのに対し,TiO_2ピンで感染徴候を認めたのは4本のみであった。 病理所見において,非TiO_2ピン群では軟部組織に炎症細胞の浸潤と膿瘍性変化がみられ,骨組織が一部融解していたが,TiO_2ピン群では細菌や炎症細胞の浸潤はほとんど認められなかった。病理像における周囲の軟部,骨組織試料を観察してTiO_2の異物反応を検討したが,炎症性細胞浸潤はあまり見られず,骨融解や偽膜組織の形成は認められなかった。 TiO_2超微粒子:水溶性のTiO_2超微粒子を開発し,この抗菌性を評価した。この吸光スペクトルは可視光領域へ拡大しており,UV及び蛍光灯光に反応し,0.5~1.0%溶液(TiO_2濃度:0.Ol9~0.038mg/ml)でも速やかに細菌量を縮小させた。牛血清アルブミンを添加した富栄養状態での評価でも,コントロールでは細菌が増殖したのに対し,TiO_2溶液群では有意差をもって生菌率を抑制した。次に,このTiO_2溶液の細胞毒性をin vitroで評価した。角膜細胞由来4種類,骨軟部組織由来4種類で評価した結果,5%(TiO_2濃度:0.19mg/ml)以上では6種類の細胞全てで有意な毒性を示した。黄色ブドウ球菌の繁殖を抑制した0.5%(TiO_2濃度:0.019mg/ml)では著しい細胞毒性は認められなかった。TiO_2は光刺激によってウイルスや細菌を死滅させることができる。また,化学的にも安定しており,極めて毒性が少ない。しかも,耐性菌を誘導せず,菌体のみならず養分や毒素も分解する特徴があるため,種々の感染症疾患の予防・治療への応用が期待される。
|