研究概要 |
正常の前十字靭帯(ACL)の骨付着部は軟骨層を介した4層構造で構築されるが、ACL再建後の骨-移植腱間はSharpey-like fiberを介して錨着する。近年、この部位に正常な4層構造を再現する試みがなされたが、未だ成し得ていない。 我々は以前、従来の骨孔法での術後初期に骨孔壁側からは内軟骨骨化機序が、移植健側では腱組織から靱帯様組織へのリモデリング機序が、両者の接する部位ではIII型コラーゲンを主体とする通常の創傷治癒機転が働いていることを明らかにした。 今回、正常なACL付着部の再現にはどのような組織学的プロセスが必要なのかを知る目的で、胎生期及び周産期Wister rat ACL脛骨付着部に対しHE,トルイジンブルー,サフラニン0,免疫染色(I、II、III、X型コラーゲン)を行い、組織学的に評価した。その結果、胎生期では、紡錘形細胞の凝集とその不規則な配列を認めるのみであったが、生後では、線維芽細胞とその細胞外基質が規則的な配列を認めた。また、骨端核に接した部分では一部肥大化した軟骨様細胞を認めた。生後2週まで、靭帯は骨端核に直接接着する形で4層構造の構築は認めなかったが、3週以降、骨端核での骨化の収束と同時に、I型コラーゲンで構成される線維の骨内へのanchoringが生じ、靭帯側では軟骨細胞様の卵形細胞が線維方向に高度に配列し4層構構造を構築し始めた。骨端核の内軟骨性骨化機序が靭帯線維を取り込んでいく過程で、付着部近傍の肥大軟骨細胞はその形質を維持しつつ、同時に靭帯側では紡錘形から卵形へと細胞の形質転換と再配列が生じ、4層構造が構築されるようであった。この2相的な接着機序のうち、靭帯側での変化を誘導する因子について今後解明していく必要がある。また骨孔法によらず、物理学的に工夫した独自のmultiple pullout法にてACL再建術を行い、組織学的に検証する予定である。
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