研究概要 |
【目的】軟骨マトリックスの分解において, MMPおよびアグリカナーゼが重要な役割をはたすが,これら酵素発現における力学的負荷の役割はいまだ不明である。本研究ではヒト軟骨細胞様細胞(SW1353)を用いて周期的伸展負荷(CTS)が転写因子RUNX2およびMMP-13、アグリカナーゼ発現に与える影響を検討した。 【方法】SW1353を5日間単層培養後, ST140 (STREX社)を用いて30分間CTS (0.5Hz,10%)を加えた。メカニカルストレスがシグナル伝達に与える影響を検討するため、CTS負荷後のp38, ERK, JNKのリン酸化に与える影響をWestern blotで検討した。抗炎症性サイトカインとしてインターロイキン(IL)-4(10nM)を添加し、CTS負荷後の転写因子RUNX2およびMMP-13、ADAMTS-1,4,5,9mRNA発現に与える影響をRT-PCR, real-time RT-PCRにより経時的に検討した。 【結果】CTSによりp38 MAPKのリン酸化の亢進が認められた。IL-4(10ng/ml)はCTSによって発現が亢進するRUNX2, MMP-13, ADAMTS-5の発現に対し抑制的に働いた。 【考察】これまでの研究で、軟骨細胞に対する力学的負荷がRUNX2発現及びこれに引き続きMMP-13, ADAMTS-5の発現を誘導することを示した。本年度は、メカニカルストレスがRUNX2発現亢進を誘導するメカニズムとしてp38 MAPKの関与を示した。さらに抗炎症性サイトカインIL-4がRUNX2発現抑制を介したアグリカナーゼ阻害活性をもつことを見いだした。 【研究の意義・重要性】本研究では、軟骨マトリックスの破壊に重要であるMMP-13,あるいはADAMTS-4,-5,-9といったアグリカナーゼが軟骨細胞においてメカニカルストレスによって遺伝子発現が調節される遺伝子であること、メカニカルストレスによる基質破壊に転写因子RUNX2が深く関与し、変形性関節症発症の治療ターゲットとなることを初めて示してきた。今回、抗炎症性サイトカインIL-4がRUNX2発現に抑制的に働くことも判明したが、さらにピストン脱アセチル化酵素阻害が同様の効果をもつかどうかを最終的に検討し、そのアグリカナーゼ発現抑制機序を解明していくことで新規治療法に結びつけることができる。
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