我々は、神経系骨代謝調整機能に関与する新たな因子を研究する目的で、転写因子であり発生学的に重要なPax6や、これを活性化するp38MAPKに着目した。これまでPax6が骨髄マクロファージ細胞と破骨細胞に強く発現していることや、Pax6の遺伝子を強制発現させるとTRAP遺伝子の発現が抑制されること、およびRetrovirusを用いた初代培養骨髄マクロファージへの遺伝子導入により破骨細胞分化が抑制されることを見出した。しかしながら破骨細胞分化過程においてPax6の発現の増加は認められず、何らかの共役因子が存在する可能性が考えられたため、これまでに転写因子のco-repressorとして知られているTleファミリーとPax6の関わりについて検討した。その結果、Tle6が破骨細胞で最も発現が高く、Pax6と協調してTRAP遺伝子発現を抑制することがレポータージーンアッセイにより確認できたが、抗Tle抗体を用いたウエスタンブロッティングではTle6とPax6の直接結合は検出できなかった。そこで、Pax6の強力な活性化機能をもつp38MAPKについて検討を行った。p38αの基質結合領域に点突然変異を導入し、一部の基質との結合性を失わせたp38MAPK knock-inマウス(sem mouse)を作製し、個体レベルでの骨代謝におけるp38MAPKの作用について検討したところ、骨密度は野生型と比較して、sem mouseで高く、特に海綿骨では有意差を認めた。次に、こうした骨密度の増加の機序を調べる目的で破骨細胞に着目し、その分化過程について検討した。骨髄細胞を採取し、M-CSFの存在下にmacrophageに分化させ、全細胞数における割合を評価したところ、有意差をもってsem mouseが低かった。またRANKL刺激を加えてTRAP陽性細胞数についても評価したところ、semmouseが有意差をもって少なかった。この結果からp38 MAPK経路に骨代謝に関与する分子標的が存在し、個体レベルでの骨密度の増加は破骨細胞の分化阻害によるものだと考えられた。
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