我々は、骨代謝、リモデリングにおける神経系制御に着目し、転写因子であるPax6や、これを活性化するMAPキナーゼ(MAPK)と呼ばれるセリン/スレオニンリン酸化酵素の1つであるp38MAPKを中心に研究を行ってきた。p38MAPKはエフェクター細胞であり病的な骨破壊の成因となる破骨細胞の分化に必須な転写因子の活性化を調節することや、神経細胞の生命維持、再生に関与することが知られている。これまでp38α遺伝子破壊マウスが胚性致死をきたすため、培養細胞レベルでの研究結果が報告されてきたが、様々なシグナル伝達経路が相互的に作用しあう生体内でのp38MAPKの役割を考察するには限界があった。そのため、p38MAPKの阻害剤を投与することで個体レベルでの機能解析が行われてきたが、相反する結果が報告されており、未だ統一した見解に到っていない。そこで我々はp38αの基質結合領域に点突然変異を導入したp38MAPKノックインマウス(semマウス)を作製し、個体レベルでのp38MAPKの機能について詳細に検討した。まず骨代謝について検討したところ、骨密度は野生型と比較して、semマウスで高く、特に海綿骨では有意差を認めた。また細胞培養の結果から、こうした骨密度の増加は破骨細胞の分化阻害により生じていると思われた。次に神経再生におけるp38MAPKの生理的機能について検討した。その結果、semマウスでは神経再生が組織学的にも機能的にも遅延することを確認した。そこで、神経再生遅延の機序について、より詳細に検討する目的で、炎症性サイトカインであるTNFαおよびRhoAおよびMAGを抑制することで神経再生に促進的に作用するとされるIL-1βの発現などについて評価を行った。その結果、損傷後早期のTNFαおよびIL-1βの発現は野生型と比較してsemマウスで有意差をもって低下していた。今回の個体レベルの解析結果から、骨代謝および神経再生において、p38MAPK経路は単独で、他のシグナル伝達経路によって代償されない重要な機能を持つことが示された。
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