吸入麻酔薬セボフルランの心筋リズムに与える影響の調査として、本年度はラット心筋細胞を用いた一過性外向きK電流を調査した。当初、生理的範囲内での実験環境での電流測定を予定していたが、ITOのランダウン現象が顕著となり、電流の減衰がランダウンによるのか、それとも薬物負荷によるものかの判断が難しいため、やむをえず室温環境下での電流測定を行った。その結果、37度環境で作成した活動電位プロトコールも適応できないため、通常の矩形波ボルテージプロトコルでの測定を代替に用いた。 電流はpeak電流(ITOpeak)とsustained電流(ITOsus)に二分しておのおのの吸入麻酔薬への感受性を調べた。その結果、0.5mMのセボフルランは、ITOpeakを0mV時に16.7±5.8%、60mV時に17.0±4.7%抑制した。一方、ITOsusに対しては0mV時に14.6±7.8%、60mV時に4.2±2.9%の抑制効果を示した。ITOは心筋活動電位において、第1相の成り立ちに関与している。ITOの抑制はすなわち第1相のノッチ部分を減弱させ、活動電位を延長するように作用することを意味する。さらに、第1相が抑制され、活動電位が延長する方向に作用した結果、プラトー相(第2相)のはじまりがはやくなり、持続時間も延長する結果、次のIK電流の活動時間が延長することとなり、全体として心筋活動電位が延長されやすくなる。今回のセボフルランによるITOへの抑制結果は大きなものとはいえないが、活動電位全体に与える影響はおおきくなる可能性が示された。 セボフルランはITOの構成2成分をいずれも抑制し、活動電位延長の原因の一環をになっていることが確認され、臨床上QTを延長しうることが明らかとなった。
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