虚血により過剰なカルシウムがミトコンドリアに流入するとミトコンドリア外膜と内膜に孔が開き、透過性亢進によりミトコンドリアが膨化する。ミトコンドリアへのカルシウムの流入を抑制し、ミトコンドリアの機能障害を軽減することが重要である。 平成20年度はカリウムチャンネルオープナー(ダイアゾキサイド)が細胞膜電位に及ぼす影響、ミトコンドリア電位に及ぼす影響に及ぼす影響を明らかにした。ミトコンドリア電位を求めるため、Wistarラットおよび砂ネズミの左頭頂側頭骨にcranial windowを開け、脳表を露出し、細胞外ガラス電極より大脳皮質にミトコンドリア電位感受性色素(JC-1)を10分間かけて注入し、色素を神経細胞内にloadingした。色素注入による細胞外電位の変化は認められなかった。次に細胞外ガラス電極よりダイアゾキサイドを0.5μl/分の速度で大脳皮質に直接注入した。キセノンランプで490nmの青色光を2秒間脳表に照射し、ミトコンドリア内に集積した色素を励起させ、脳表の赤色蛍光(590nm)、緑色蛍光(530nm)を電子冷却CCDカメラで撮影し、その比率から20秒毎にミトコンドリア電位を測定した。この方法によりミトコンドリア電位と細胞外電位を同時に測定することが可能になった。ダイアゾキサイドの投与でミトコンドリア電位はコントロール値の51%に低下した。しかし細胞外電位に変化は認められなかった。この状態で椎骨動脈、総頸動脈を結紮し全脳虚血を負荷すると3.1分で細胞膜は脱分極を示した。ダイアゾキサイドを投与しなかった群は2.3分で細胞膜は脱分極を示した。ミトコンドリアのカリウム電位は神経細胞のエネルギー代謝に大きな影響を及ぼしていないことを示唆していると考えられた。ミトコンドリアカリウム電位勾配のコントロールはエネルギー代謝に障害を及ぼすことなく治療効果を発揮できる可能性がある。
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