虚血により過剰なカルシウムがミトコンドリアに流入するとミトコンドリア外膜と内膜に孔が開き、透過性亢進によりミトコンドリアが膨化する。ミトコンドリアへのカルシウムの流入を抑制し、ミトコンドリアの機能障害を軽減することが重要である。 平成22年度はミトコンドリア電子伝達系阻害薬(CCCP)が細胞膜電位とミトコンドリア電位に及ぼす影響、ミトコンドリア電子伝達系(酸化還元電位)に及ぼす影響を明らかにした。ミトコンドリア電位を求めるため、Wistarラットおよび砂ネズミの左頭頂側頭骨にcranial windowを開け、脳表を露出し、細胞外ガラス電極より大脳皮質にミトコンドリア電位感受性色素(JC-1)を10分間かけて注入し、色素を神経細胞内にloadingした。色素注入による細胞外電位の変化は認められなかった。キセノンランプで490nmの青色光を2秒間脳表に照射し、ミトコンドリア内に集積した色素を励起させ、脳表の赤色蛍光(590nm)、緑色蛍光(530nm)を電子冷却CCDカメラで撮影し、その比率から20秒毎にミトコンドリア電位を測定した。この方法によりミトコンドリア電位と細胞外電位を同時に測定することが可能になった。ミトコンドリア電子伝達系阻害薬は微細ガラス電極を用いて大脳皮質に持続注入した。ミトコンドリア電子伝達系阻害薬の持続注入により酸化還元電位は緩やかに還元型に傾いた。ミトコンドリア電位はコントロール値の10%に低下した。細胞膜電位に変化を認めなかった。これら観察結果よりハロタン麻酔下の大脳皮質はミトコンドリアのエネルギー産生の有無によらず細胞膜電位を維持できることが示唆された。
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