研究概要 |
腫瘍細胞から分泌される神経成長因子(NGF)は,腫瘍を成長させ転移を促進する。一方,NGFの過剰分泌は、シナプス伝達を修飾して痛覚過敏を起こし,がん性疼痛を誘発するかもしれない。この仮説を解明するため,水棲カタツムリの中枢神経細胞,VD4とLPeD1とを用いて,24〜48時間培養して,前者をシナプス前細胞,後者をシナプス後細胞とするシナプスを作製した。このシナプスを構築するときに,NGFを含まない培養液を用いる群(非投与群)と,NGFを含む培養液を用いる群(投与群)に分けた。このシナプスはアセチルコリンを伝達物質とする化学シナプスであることはわかっている。 非投与群では抑制性シナプスが構築されたが,投与群では興奮性シナプスが構築された。シナプス後電位は,投与群で有意に大きかった(14±4(SD)vs35±9mV)。微小終板電位の発生頻度は,投与群で著明に増加し(6±3vs11±4/min),電位は投与群で有意に大きくなった(1.9±0.4vs3.5±0.4mV)。さらに,リドカインは,シナプス後電位および微小終板電位の増大を抑制することがわかった。 シナプス形成過程において十分量のNGFを投与すると,抑制性シナプスを興奮性シナプスに変える。微小終板電位の増大および発生頻度の増加は,生体に起こる痛覚過敏を示唆すると考えられる。リドカインは,これらの変化を抑制することが明らかになった。リドカインは,神経因性疼痛の治療に使われているが,その作用機序を示す結果かもしれない。さらに検証を進めたい。
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