研究概要 |
昨年度までは,リアノジン受容体の変異がカルシウム受容体におよぼす影響を調べるための実験系の作成に多くの時間を割いた.その後日本人の悪性高熱症患者から最も多く確認されたリアノジン受容体遺伝子変異の部位である2508番目のアミノ酸変異に関しては,アルギニンからシステインへの変異及びヒスチジンへの変異が悪性高熱症の原因となりうることを証明した.このうち,システインへの変異はEuropean malignant hyperthermia group (EMHG)に報告し,EMHGのホームページ上で公開されている(http://www.emhg.org/nc/genetics/mutations-in-ryr1/).本年度は,C末端側である4894番目のアミノ酸変異に着目し実験を行った.アラニンからスレオニンの変異は,2508番目の変異と同様にカフェイン及び4chloro-m-cresol (4CmC)への反応が亢進しており,悪性高熱症の原因となることが証明された.一方,この部位のプロリンへの変異が先天性筋疾患の一つであるcongenita neuromuscular disease with uniform type 1 fiber (CNMDU1)の患者から発見されている.この変異を我々の実験系で再現したところカフェイン及び4CmCに濃度を上げてもほとんど反応しなくなった.このような反応はセントラルコア病など他の先天性筋疾患で報告されているアミノ酸変異でも同様の反応減弱が報告されており,CNMDU1が生じる原因がセントラルコア病の発症原因と似通っている可能性が示唆された.加えて,この部位において今まで報告されていないアミノ酸変異を作成し実験したところ,セリンへの変異では悪性高熱症の患者から発見されたスレオニンへの変異と同様の反応亢進が確認されたが,グリシンへの変異では逆に反応が減弱した.セリンおよびスレオニンはともにヒドロキシル基をもったアミノ酸である.C末端側のアミノ酸変異は先天性筋疾患の患者で報告されることが多いが,4894番目のアミノ酸変異の場合,ヒドロキシル基を持ったアミノ酸への変異に伴うリアノジン受容体の構造変化が悪性高熱症を引き起こす可能性が示唆された.
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