平成21年度の研究では、8週齢のラットに1.2%イソフルランによる全身麻酔を2時間かけた後の学習能力が、イソフルラン麻酔を行う時間帯が昼間帯(ラットの活動低下時期)と夜間帯(ラットの活動上昇時期)で異なるかについて、 1.放射状迷路試験(radial arm maze; RAM)を麻酔後2日目から3週間行っても、昼間帯、夜間帯ともに影響がない。 2.ショック逃避試験(Shock Avoidance)では、やはり昼間帯と夜間帯の差はないが、麻酔後1日目の成績が悪くなる ことを明らかにした。 特に、2は世界初の知見である。また、Shock AvoidanceテストはRAMにくらべ、実験にかかる手間と時間がはるかに節約できるので、今後、学習障害が出やすい麻酔薬の濃度、麻酔時間、麻酔終了後の時間、麻酔薬の違いによる差などを検討するうえで、良いモデルを発見したこととなり、今後の研究の加速が期待できる。 当初の実験計画と異なり、老齢ラットではなく若いラットを用いているが、 1.人間でも若年成人の全身麻酔後、数時間~数日は認知機能が低下することが知られており、今後、日帰り麻酔が普及するにしたがって臨床上の問題となりうること(日帰り麻酔の盛んなアメリカではすでに問題視されている。) 2.老齢ラットは値段が高いので、若年ラットでもっとも学習能力の低下する条件を見つけてから実験を行う必要があること より、若年ラットを用いたモデルで研究を進めた。
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