慢性疼痛に関連する転写因子としてNF-IL6とHMGB-1に焦点をあて機能解析を行った。 NF-IL6の機能解析 転写因子NF-IL6のノックアウトマウスを作成し、慢性炎症性疼痛モデルを作成して行動解析を行った。足底に炎症惹起物質CFAを注入、処置後1週間にわたって痛覚刺激に対する反応を測定し疼痛閾値を決定した。炎症の作成により、熱刺激および機械刺激に対する痛覚閾値は低下した。NF-IL6ノックアウトマウスでは、野生型マウスと比較して熱刺激に対する痛覚閾値の低下(熱性痛覚過敏)は減弱していた。すでに我々は、慢性疼痛モデルにおいてNF-IL6が一次知覚神経に発現することを確認しており、一連の行動解析の結果は、一次知覚神経に誘導されるNF-IL6が慢性疼痛成立において重要な役割を果たしていることを示している。 HMGB-1の発現解析 HMGB-1は転写因子として働く一方、炎症活性物質として細胞間情報伝達にも関与する。HMGB-1が慢性疼痛成立に果たす役割を調べるため以下の実験を行った。 ラット坐骨神経を結紮し、神経障害性疼痛のモデルを作成した。処置後1週間で一次知覚神経を摘出し、免疫組織化学およびウェスタンブロッティングによりHMGB-1の発現を解析した。その結果、HMGB-1が神経損傷によって一次知覚神経および周囲のグリア細胞に強く発現することが示された。抗HMGB-1抗体を一次知覚神経周囲に投与して行動解析を行ったところ、HMGB-1抗体投与群では機械刺激に対する疼痛閾値が上昇しており、HMGB-1を阻害することにより痛覚過敏は減弱した。これらの結果から、神経損傷に伴い一次知覚神経に誘導されるHMGB-1が神経障害性疼痛の成立に関与する可能性が示された。
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