研究概要 |
モルヒネを慢性投与し鎮痛に対する耐性が形成されたラット脳内においてDセリン量、Dセリン関連タンパク質量、およびそれらの遺伝子発現変化について解析し、Dセリン代謝とモルヒネ依存・耐性形成あるいは退薬症候との関連を明らかにすることを目的とする。研究結果(1)耐性形成:モルヒネ(10mg/kg)を30日間投与し耐性が形成されたことを確認した。(2)Srr&DAO mRNA量の変化:モルヒネ慢性投与によりSrr mRNA発現量は全ての脳部位で、DAOは前脳部(線状体、海馬、大脳皮質)において有意に増加した。(3)Srr&DAOタンパク質量の変化:モルヒネ慢性投与によりSrrタンパク質量は全ての脳部位で有意に増加した。一方DAOは有意な変化が観察されなかった。(4)Dセリン量の変化:モルヒネ慢性投与により前脳部(線状体、海馬、大脳皮質)において有意に増加した。(5)Srr発現細胞:これまでDセリンおよびDセリン合成酵素Srrは2型アストロサイトで発現されるとの報告があるが、神経細胞で発現していることが明らかとなった。(6)ベンゾジアゼピン系薬物とDセリンの鎮痛効果との関連:Dセリンを脳室内投与して現れる鎮痛効果はミダゾラム脳内投与により有意に減弱された。以上の結果から、モルヒネ慢性投与は関連タンパク質(Srr,DAO)遺伝子発現の変化を伴い前脳部のDセリン量を増加することが明らかとなった。Dセリンおよびその合成酵素のセリンラセマーゼは主に神経細胞で発現することを明らかにした。また下行性疼痛抑制経路においてDセリンの鎮痛効果はベンゾジアゼピン受容体と連関していることが明らかとなった。
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