研究概要 |
これまでにわれわれは、モノクローナル抗体RM2は悪性度を反映して前立腺癌細胞に対する反応が高くなること、そして、ハプトグロビンベータ鎖が前立腺癌に対するRM2の反応性を担っていることを示してきた。そこで、本研究では「RM2が規定するハプトグロビンベータ鎖はどのような機能的役割を果たしているか」を明らかにすることを目的とした。 まず、前立腺癌細胞をモノクローナル抗体RM2で処理したところ、足場依存性および非依存性増殖能の低下、アポトーシスの増加、運動能および浸潤能の低下が観察された。さらに、5-AzaやPBAにより前立腺癌細胞を処理したところ、RM2が規定するハプトグロビンベータ鎖の発現低下とともに、悪性形質に関連したシグナル伝達分子の発現レベルの変化が観察された。一方、がん抑制に関与するシグナル伝達分子はその発現が増加していた。これらの結果は、RM2が規定するハプトグロビンベータ鎖がシグナル伝達分子と密接に関わることにより、前立腺癌細胞の悪性形質発現に関与することを示唆している。以上より、RM2により処理した前立腺癌細胞のシグナル伝達分子を調べた結果、RM2が規定するハプトグロビンベータ鎖は、Ras→Akt pathway、Src & FAK pathwayのほか広くシグナル伝達分子の発現レベルに影響を及ぼしていることが示唆された。 以上の結果から、RM2が規定するハプトグロビンベータ鎖は上位にあるシグナル伝達分子へ関与している可能性が考えられた。RasやSTAT3の発現レベルが変化したことから、それらを制御しうる可能性のある分子として、EGFRが考えられた。LNCaP, PC3, DU145のcell lysateをRM2で免疫沈降し、抗EGFR抗体で検出したところ、3種類の前立腺癌細胞株すべてにおいて、バンドが検出された。さらにRM2により、これら3種類の細胞株を刺激すると、EGFRの細胞内への移動が増加することが示された。これらの結果から、RM2が規定するハプトグロビンベータ鎖は、EGFRとの相互作用を通して、Ras→Akt pathwayを刺激し、STAT3の発現を上昇させ、悪性形質発現に関与しているが、RM2により相互作用がブロックされることが示唆された。
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