研究概要 |
食生活の欧米化にともなう、血清中の脂質環境の変化は、血清中のコレステロール濃度の変化のみにとどまらず、副腎のコルチゾール、コルチコステロンなどの糖質コルチコイド濃度の変化をもたらし、血清中・精巣中・前立腺組織内の性ホルモン濃度の変化をきたす。今回、前立腺癌罹患危険予見因子としての内分泌環境の重要性に関する症例対照研究として、検診の継続受診中に前立腺癌を発症した症例群(n=20)と、継続受診中に癌を発症しなかったPSA基礎値と年齢を適合させた対照群(n=40)を対象に、PSA値が基準値以下の臨床的に前立腺癌を疑わない時期の血清中のホルモン12項目(エストラジオール,テストステロン,DHT,アンドロステンジオン,プロゲステロン、プレグネノロン、DHEA,エストロン,コルチゾール,コルチゾン,コルチコステロン,11-デオキシコルチコステロン)の測定を行い、臨床的に前立腺がんを疑わない時期の内分泌環境が、将来の前立腺癌発症に関係するか否かを検討した。 症例群と対照群における初回受診時の血清中のホルモン環境は、プレグネノロン(P5)濃度は症例群において平均153.1pg/mLと、対照群の平均値である97.7pg/mLと比較し有意に高くなった(p=0.004)。その他、エストラジオール(E2)と11-デオキシコルチコステロン(DOC)は、対照群において症例群よりも有意に高値であった。癌の臨床的な発症の数年前の血清中のP5の有意な上昇は、コレステロールからのCYP11A1(desmolase)からの変換が進んでいることによると考えられ、このようなホルモン環境の数年の曝露によって、前立腺癌の発症につながった可能性が示唆される結果であった。また、血清中のE2が高値であることは、癌の発症に抑制的に働く可能性も示唆された。
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