近年の日本の前立腺癌罹患数・死亡数は、高齢化と生活様式の欧米化に伴い急増し、また2000年の死亡数に対して2020年の死亡数の予測値は2.8倍と、男性癌の中で最も上昇率が高いと予想されている。この背景の一つには、食習慣の変化により体内の内分泌環境が変化し、前立腺癌の発症の増加に関与している可能性がある。血清中脂質環境の変化は、血清中コレステロール濃度の変化のみにとどまらず、副腎のコルチゾール、コルチコステロンなどの糖質コルチコイド濃度の変化をもたらし、血清中・精巣中・前立腺組織内の性ホルモン濃度の変化をきたすことは確実であり、個人々々の3β水酸化ステロイド脱水素酵素、21水酸化酵素、11β水酸化酵素、アロマターゼなどの変換酵素の活性の違いにより、最終的な体内の内分泌環境が決定されると考えられる。本研究では、確立された一斉分析法で12項目の性ホルモン濃度を測定し、ホルモン環境と前立腺癌の発症・組織学的悪性度の関連性を検証することが目的である。特に人種差を超える前立腺癌罹患危険因子であるPSA基礎値と性ホルモン環境に関するデータを組み合わせ、正確な前立腺癌罹患測が可能か否か検証を行った。 症例群と対照群における初回受診時の血清中のホルモン環境は、プレグネノロン(P5)濃度は症例群において対照群と比較し有意に高くなった(p=0.004)。またエストラシオール(E2)と11-デオキシコルチコステロン(DOC)は、対照群において症例群よりも有意に高値であった。臨床癌への進展の数年前の血清中のP5の有意な上昇は、コレステロールからCYP11A1による性ホルモンへの変換が促進されている事によると考えられ、このようなホルモン環境の数年間の曝露が前立腺癌発症につながった可能性が示唆された。また、血清中のE2が高値であることは、癌の発症に抑制的に働く可能性が示唆された。
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