研究概要 |
アンドロゲン非依存性前立腺癌に対する新たな治療法を開発していく上で,再燃メカニズムの解明は必須である.しかしながら,エストロゲン受容体(ER)を介したシグナル伝達に着目し,再燃メカニズムの解明を試みた検討は皆無に等しい.前立腺癌におけるエストロゲンとERの役割は,多くの争論,異論で混沌としており,未だにその詳細は不明のままである.そこで,再燃前立腺癌におけるERを介したシグナル伝達機構に対する分子生物学的手法による包括的解明を目的に本研究を始動した. 平成21年度は,前立腺癌におけるERを介したシグナル伝達機構の包括的解明として,20年度から引き続いて主としてin vitroでの実験を計画し,ERαとERβの機能解析とNF-κBと競合を中心に検討した. その結果,エストロゲンによって誘導されるER転写活性によってNF-κB転写活性が一部抑制されており,逆にNF-κB転写活性を誘導することによってER転写活性が抑制された.よってERとNF-κBの転写活性間に何らかのクロストークが存在することが示唆された.さらに,新たに構築したERβ発現ベクターをFuGENE6にてLNCaP,PC-3,DU145細胞に導入し,ERβの発現をmRNAおよび蛋白レベルで確認した.PC-3細胞に対してERβを過剰発現させた場合,ERαの発現が逆に抑制された.これは,ERαは前立腺癌の進展に促進的と仮定すると,ERβを強制発現させること自体が治療ストラテジーの1つとなりうる可能性が示唆された.以上の結果を踏まえて,来年度はERβをターゲットにした遺伝子治療の可能性に取り掛かる予定である.
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