本研究の目的は、ヒト前立腺癌ときわめて類似した経過をたどるノックインマウス前立腺癌モデルを用いて、高脂血症治療薬であるスタチンの前立腺癌発生・進行予防効果を明らかにすることである。なお、本研究にはマウスの前立腺分泌蛋白であるprostate secretory protein of 94 amino aclds (PSP94)の遺伝子プロモーター/エンハンサー領域とSV-40初期遺伝子を用いて作製されたPSP94-knock-in mouse adenocarcinoma of the prostate (PSP-KIMAP)を使用した。 各月齢の野生型およびPSP-KIMAPマウスを対象として、臨床で使用されている血管内超音波プローブを用いた経直腸的超音波断層法(TRUS)を行い、前立腺の病理組織所見とその超音波画像の対比を行った。なお摘出標本の病理学的所見は、臨床で用いられているGleason scoreに準じて評価し、以下の結果を得た。 1.吸入麻酔下に行うマウスTRUSは簡便かつ安全であり、1匹あたりの検査所要時間は5分程度であった。 2.前立腺の大きさはPSP-KIMAPマウスにおいて9ヵ月以降18ヵ月まで経時的に増大した。 3.PSP-KIMAPマウスにおける月齢ごとの前立腺癌発症率は6ヵ月で20%、9ヵ月で46%、12ヵ月以上で100%であり、組織学的悪性度はGleason score 6〜8に相当した。 4.TRUSによる前立腺癌の局在は、その摘出組織標本所見とよく一致していた。 血管内超音波プローブを用いたTRUSによるマウス前立腺の観察は簡便かつ低侵襲で、マウスの屠殺を行うことなく腫瘍の変化を縦断的に観察することが可能であった。今後、スタチン投与による前立腺癌の経時的変化を観察する予定である。
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