本研究の目的は、ヒト前立腺癌ときわめて類似した経過をたどるノックインマウス前立腺癌モデル(PSP-KIMAPマウス)を用いて、高脂血症治療薬であるスタチンの前立腺癌発生・進行予防効果を明らかにすることである。今年度までに以下の結果が得られた。 1. PSP-KIMAPマウスにおける月齢ごとの前立腺癌発症率は6ヵ月で20%、9ヵ月で46%、12ヵ月以上で100%であり、組織学的悪性度はGleason score 6~8に相当した。 2. 細胞の増殖や分化との関連が示唆されている非受容体型チロシンキナーゼであるFesの前立腺癌における発現を検討した。まず、ヒト前立腺癌組織38検体を用いた検討では、非腫瘍部におけるFesの発現はほとんどみられなかったが、腫瘍部では半数に強発現が認められた。また、Fesの発現は組織学的悪性度とは関連なかったが、病理病期め進行と有意に関連していた。PSP-KIMAPマウスの前立腺でも同様に、月齢12ヵ月以上の前立腺腫瘍部ではFesの発現が亢進していた。以上より、Fesは前立腺癌の発生あるいは進行と関連している可能性が示唆された。 今後、PSP-KIMAPマウスにおけるFesの発現を経時的に検討し、前立腺癌の発生および進行におけるFes発現の意義を明らかにするとともに、マウスの縦断的観察からスタチン投与によるマウス前立腺癌の予防効果を明らかにし、その機序について検討する予定である。
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