本研究の目的は、ヒト前立腺癌ときわめて類似した経過をたどるノックインマウス前立腺癌モデル(PSP-KIMAPマウス)を用いて、高脂血症治療薬であるスタチンの前立腺癌発生・進行予防効果を明らかにすることである。今年度までに以下の結果が得られた。 1.PSP-KIMAPマウスにおける月齢ごとの前立腺癌発症率は6ヵ月で20%、9ヵ月で46%、12ヵ月以上で100%であり、組織学的悪性度はGleason score 6~8に相当した。 2.細胞の増殖や分化との関連が示唆されている非受容体型チロシンキナーゼであるc-Fesの前立腺癌における発現を検討した。 (1)PSP-KIMAPマウスの前立腺におけるc-Fesの発現は、正常組織で0%(0/7)、prostatic intraepithelial neoplasia(PIN)で25%(2/8)、癌で100%(7/7)であった。 (2)根治的前立腺摘除術を受けた前立腺癌93例の検討では、癌細胞におけるc-Fesの発現は非癌細胞より有意に高く、病理病期および組織学的悪性度と有意に関連していた。また、c-Fes陽性症例は陰性症例に比べ、生化学的再発率が有意に高く、多変量解析でもc-Fesの発現は独立した予後因子であった。 以上より、c-Fesは前立腺癌の発生あるいは進行と関連し、前立腺癌の化学予防および治療の標的となり得る可能性が示唆された。 一方、マウスへのスタチン投与実験系を確立できず、当初の目的であったスタチンの前立腺癌予防効果を評価できなかった点が今後の課題である。
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