我々は前立腺癌でメチル化の頻度が高い複数の遺伝子のプロモーター領域のメチル化を測定し前立腺癌の診断・病理予測マーカーとして有効な遺伝子の探索を行った。(方法)我々は重金属との結合親和性が高いシスティンリッチな低分子タンパクであり、種々の悪性腫瘍でその過剰発現が報告されているMetallothioneins (MTs)に注目した。前立腺癌細胞株LNCap、PC3、DU145を脱メチル化剤の5-aza-dC添加培地で72時間培養。抽出したRNAをcDNAに変換し、各MTsのisoformの発現をRT-PCRにて測定した。前立腺全摘除術を施行されたPC 177例、および経尿道的前立腺切除術を施行された前立腺肥大症(BPH)69例のパラフィン包埋組織からDNAを抽出、さらにbisulfite(亜硫酸塩)処理をおこなった。bisulfite処理されたDNAをテンプレートにしてメチル化特異的PCR (MSP)を行った。1st.PCR産物を直接シークエンスしてMSPの結果を検証した。(結果)早期癌モデルであるLNCapでは5-aza-dC添加前後にMT1Gの発現は変化せずメチル化の影響はないと考えられたが、ホルモン非依存性のPC3とDU145では5-aza-dC添加後にMT1G発現が著明に上昇しておりメチル化の影響を受けていた。そこで臨床検体においてMT1GのMSPを試行した結果、MT1Gのメチル化陽性はBPHでは63.8%(69例中44例)、PCでは20.9%(177例中37例)に検出され有意差が認められた。進行性PCにおけるメチル化陽性の頻度は限局性PCに比べて有意に高かった[≧pT3:59例中20例(33.9%)、≦pT2:118例中17例(14.4%)、p=0.0021]。また免疫染色ではssDNA陽性細胞数はメチル化陰性群では陽性群に比べて有意に高かったが(各5.99±1.35、4.08±3.58、p=0.011)、PCNA陽性細胞数には差が認められなかった(各162±31、168±67、p=0.602)。MT1Gのメチル化を介したMTsの発現調節がPCの病因に関与する可能性が示唆された。
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