研究概要 |
昨年までの研究に引き続き、miR-145,miR-133a,miR-1は膀胱癌における重要な癌抑制遺伝子であるとの見地から、これらのmicroRNAのgain-of-function studyを行い、増殖、遊走、浸潤能、およびアポトーシス誘導を評価した。miR-1は膀胱癌において最も発現が抑制され、腫瘍抑制効果も大きかった。これらのmicroRNAの標的遺伝子の同定のために膀胱癌細胞株(BOY,KK47,T24)にmiR-145,miR-133a,miR-1を発現導入させ、oligo-microarrayによる遺伝子発現解析を行った。その結果、FSCN1,LASP1,TAGLN2,GSTP1などの遺伝子がこれらmicroRNAの標的遺伝子であることを見出した。標的遺伝子の機能解析としてXTT assay、flow cytometryを行った。標的遺伝子は増殖・遊走・浸潤・アポトーシスに関することが示唆された。ルシフェラーゼアッセイではこれらmicroRNAが標的遺伝子の3'UTRに直接結合することを確認した。免疫染色ではTAGLN2の発現強度とGradeに有意な相関関係を認めた。これら癌抑制microRNAは複数の癌遺伝子を制御することから、癌抑制microRNAの発現抑制による膀胱癌の分子ネットワークの一端が明らかになった。さらに我々は以前、臨床尿路上皮癌組織において有意に発現が変動しているmicroRNAのプロファイルを報告した。癌で発現が亢進している上位3つのmicroRNA(miR-96,miR-183,miR-190)の検出を尿路上皮癌組織検体と尿検体で行い、腫瘍マーカーとしての有用性を検討したところ、癌患者の尿中における発現は健常者や尿路感染患者の尿に比べて有意に高かった。これらmicroRNAの発現はステージやグレードとも有意に相関し、さらに術前・術後の比較ではmiR-96、miR-183の発現は術後に有意に低下していた。miR-96の検出は感度71.0%特異度89.2%(AUC 0.831)で癌患者と非癌患者の区別が可能であった。また尿細胞診で陰性であった44症例中では27例でmiR-96が検出可能であり、尿細胞診と合わせると78.2%の診断感度が達成された。尿中のmicroRNA測定は尿路上皮癌の非侵襲的な診断法として有用である可能性が示唆された。
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