研究概要 |
本年度は前年度のデータをもとに、ヒト膀胱癌細胞株(T24)に対するヒストンデアセチラーゼ阻害剤であるバルプロ酸ナトリウム(Valproic Acid ; VPA)を用いたアデノウイルスベクターの導入効率の向上および遺伝子治療効果の増強に関する検討をおこなった。まず、T24に対して0.25mMのVPA前処置した場合のCARmRNA発現を検討した結果、24、48及び72時間の前処置によりCARmRNA発現はそれぞれ約4、5,7及び15.3倍に向上したことから、VPA前処置(特に72時間)によるアデノウイルスベクター導入効率の向上の可能性が示唆された。次に、T24におけるアデノウイルスベクターの導入効率を検討するために、Ad5-CMV-LacZを感染させβgal staining法で遺伝子導入効率を検討した結果、非前処置群では1.0×10^7btu/mlであった遺伝子導入効率が、VPA(0.25mM、72時間)の前処置により1.2×10^8btu/mlと12倍の導入効率の向上を認めた。さらに、T24に対してVPA(0.25mM、72時間)前処置を行った上で、前年度に作製したAdMKEIaを1、10及び100MOIで感染させた際の抗腫瘍効果をAlamar Blue Assayで検討した。Day7の時点で非前処置群では、抗腫瘍効果は100MOIで23.4%であった。、一方、前処置群では1、10及び100MOIの感染でそれぞれ21%、45.7%及び74.2%と高い抗腫瘍効果が認められたことから、VPAによる前処置によってアデノウイルスベクターの初回感染率が向上し、かつ腫瘍崩壊後の周囲の非感染細胞へのアデノウイルスベクターの2次感染効率も向上した可能性が示唆された。 以上から、T24のようにアデノウイルスベクターの遺伝子導入効率が低い細胞株に対しては、VPA前処置(特に72時間)を行ったうえで感染させることで、目的遺伝子の導入を向上させることが可能であり、またアデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療の抗腫瘍効果を向上させることが可能であると考えられた。
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