本年度は前年度のデータをもとに、ヒト膀胱癌細胞株(T24)マウス皮下腫瘍モデルに対して、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤であるバルプロ酸ナトリウム(Valproic Acid ; VPA)による腫瘍部位におけるCARの発現への影響と、それによる抗腫瘍効果への影響を検討した。 まず、T24マウス皮下腫瘍モデルに対して0.25mMのVPAを投与した場合の腫瘍局所におけるCAR発現を検討した結果、非投与群と比較して、投与3日後で1.7倍、投与7日後で1.9倍に向上したことから、マウス皮下腫瘍モデルにおいても、アデノウイルスベクター導入効率の向上の可能性ならびそれによる抗腫瘍効果向上の可能性が示唆された。さらに、T24マウス皮下腫瘍モデルを形成し、腫瘍径が5mmになった時点で0.25mMのVPAを一週間投与し、初年度に作製したAdMKE1aを用いて、AdMKE1a 1.0×10^9pfu/tumorで腫瘍内に投与した。AdMKE1aの投与はVPA投与1週間後と2週間後の2回とし、VPA投与4週間後の時点で、腫瘍径を測定して抗腫瘍効果を検討した結果、コントロール群(PBS投与群)と比較して、AdMKE1a単独群、VPA前投与+AdMKE1a群ともに有意に抗腫瘍効果を認めた。一方、AdMKE1a単独群とVPA前投与+AdMKE1a群では、VPA前投与+AdMKE1a群では、AdMKE1a単独群より約13%の抗腫瘍効果の改善を認めたが、有意差は認めなかった。また、VPA投与4週間後の時点でのマウス肝臓のH.E.染色では、明らかな組織障害を認めなかった。 以上から、T24のようにアデノウイルスベクターの遺伝子導入効率が低い細胞株に対しては、VPA前投与を行ったうえでベクター投与を行うことで、アデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療の抗腫瘍効果を向上させることが可能であると考えられた。
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