前年度までの研究でウィルスベクターを用いて、神経栄養因子neurturinを神経損傷後の海綿体神経に導入し、勃起能回復や海綿体神経再生促進を検討することが示された。その後、より臨床に近い海綿体神経損傷モデルを作成する目的にさまざまな試みを行ってきた。それによって、神経剥離のみで神経機能低下が起こることそれには炎症が関与している可能性が高いことがわかってきた。今年度は、海綿体神経損傷に対する遺伝子治療をさらに有効に行うために、パートナーである雌の存在が実際にどのような影響を与えるのか検討してきた。また、今後のヒトへの遺伝子治療の応用も視野において、ヒトの海綿体神経の解剖について新たに前立腺周囲の勃起神経の神経線維分布についても検討を行った。 1. ラット神経損傷モデルの作成 ラット神経損傷モデルにはさまざまなものがあるが、今回、我々は神経温存根治的前立腺摘除術のモデルとして新たに神経を剥離するだけのモデルを確立した。これにより、炎症が海綿体神経機能低下に密接にかかわっている可能性が示唆された。特にIL-6の関与は顕著で、この遺伝子をおさえる免疫療法や遺伝子治療の可能性が示唆された。 2. 神経機能回復に影響を与える環境の検討 今回、我々は遺伝子治療を行っていくうえでより好ましい環境を検討する目的にパートナーである雌と共棲させたモデルと加齢モデルを用いて検討を行った。結果、パートナーの存在は勃起能回復に影響を与えている可能性が示唆され、海綿体神経損傷における遺伝子治療において、パートナーの存在とリハビリテーションが重要な位置を示す可能性が示唆された。 3. ヒト海綿体神経の解剖学的再検討 ヒト海綿体神経に特異的なnNOSをマーカーとしてヒトの前立腺周囲の神経走行について免疫染色で検討した。その結果、勃起能によって神経分布に違いが存在する可能性が示唆された。
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