研究概要 |
精子の質を判定する臨床診断キットの開発を目指して、客観的な精子無力症診断法の確立を目的とした検討を行った。本年度は主に精嚢主要蛋白であるsemenogelin(Sg)をマーカーとして、精子へのSgの結合性をフローサイトメトリーにて解析し、精子無力症の診断パラメータとしての有用性を検討した。不妊外来を受診した精子運動率50%以下の患者および健常ボランティア男性のpercoll洗浄精子を固定後、抗Sgモノクローナル抗体と反応させ、蛍光標識2次抗体で染色し、フローサイトメーターを使用してSgの結合率(%)ならびに結合量(蛍光強度)を解析した。その結果、Sg結合率(mean±SD)は患者(63±17%)で健常男性(29±14%)に比較して有意に高く(p<0.0001)、精子運動率および生存率との間に強い負の相関(r=-0.64,r=-0.68)が認められた。Sg結合量も同様に患者(579±456)は健常男性(184±143)より有意に高く(p=0.01)、精子運動率および生存率との間に負の相関(r=-0.37,r=-0.45)を認めた。またSg結合率と結合量の間には正の相関(r=0.538)が認められた。SPMI結合率が高い検体ではSPMI結合量も多く、その傾向は患者群においてのみ有意であった。精子無力症患者はSPMI結合率55%以上かつ結合量450以上に分布しており、今回の対象集団においてはここがカットオフ値と考えられた。精子無力症患者では不良な精子にSgが結合することで精子の運動性に抑制が起き、不妊に至っていることが推察された。以上より、精子へのSg結合性は精子無力症の診断マーカーとして有用であることが示された。今後は不妊カップルの男性において同様の検討を行い、生殖補助医療における受精率や妊娠率の予測因子となり得るのか検討する。
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