(1)胚発育に伴う小胞体ストレスの経時的変化を検討した。 結果:小胞体ストレスは分子シャペロンであるBipの発現により確認した。胚発育に伴うBip発現は、MII卵で最も強く、その後の胚発育に伴い減弱する傾向が認められた。この結果は排卵現象自体がERストレスを誘導し、胚発育には必須である可能性を示唆するものと考える。 (2)マウス卵を用い、排卵後の卵の加齢をAgingモデル卵(加齢卵)として小胞体ストレスが卵の加齢に関与するかを検討した。また、小胞体ストレスが胚発育を悪化させるか否か検討した。 結果:加齢卵ではBipが新鮮卵(排卵直後の卵)に比較し、強発現した。また、小胞体ストレス誘導物質のthapsigarginはマウス卵において小胞体ストレスを誘導した。また、新鮮卵(MII卵)、新鮮卵から体外受精をして得られた8細胞期胚へのthapsigargin暴露はいずれも加齢卵様に胚発育を悪化させた。この結果から加齢卵での胚発育悪化の原因として小胞体ストレスの関与が示唆された。 これまでの結果の意義 適度のERストレスは正常胚発育には必須である可能性が示唆された。一方、加齢卵にみられるような過度(生理的な範囲を超えて)の小胞体ストレスは、ミトコンドリアに働きかけてアポトーシスを誘導するなどして、胚発育を悪化させると考えられた。排卵が誘導する小胞体ストレスが胚の初期発生、卵の質に大きく関わっている可能性が示唆された点は非常に意義が大きい。
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