【研究の目的】小胞体ストレスはAlzheimer病など神経変性疾患、糖尿病などの発症に関与することが知られている。本研究では卵の加齢の一因として小胞体へのストレスが関与するかを否かを検討した。 1.小胞体ストレス誘導物質thapsigargin(Tg)が胚発育に及ぼす影響を検討した。 (1)マウス未受精卵へのTg暴露は受精率を低下させ、その後の胚発育も悪化させた。その胚発育のパターンは加齢卵の胚発育パターンに類似した。 (2)胚盤胞の形態を比較すると、Tg暴露卵は新鮮卵に比べ変性が顕著であった。 (3)8細胞胚へのTG暴露は桑実胚、胚盤胞への発育を悪化させた。 2.小胞体ストレス誘導物質tunicamycin(Tu)が胚発育に及ぼす影響を検討した。 (1)マウス未受精卵へのTu暴露は受精率を低下させ、その後の胚発育も悪化させた。 (2)高濃度(5.0μg/mL)のTu暴露は桑実胚以降で劇的に胚発育を悪化させた。 (3)高濃度(5.0μg/mL)では桑実胚以降の胚の変性が顕著であった。 【研究の意義と重要性】卵加齢のメカニズムとして従来、ミトコンドリア機能低下が注目されていたが、本研究により卵加齢メカニズムの新しい概念が確立した。ミトコンドリアをターゲットとした卵若返りの研究には限界がある。つまり、ミトコンドリア移植だけでは卵を若返りは困難である。これは小胞体ストレスが移植ミトコンドリアにもアポトーシスシグナルを伝達するからと考えられる。よって、本研究の結果は卵加齢克服のための新たなストラテジー確立の一助となりうる。つまり、卵における小胞体ストレスの回避は、卵加齢を予防することにより、加齢卵に認められる受精率の低下と胚発育の悪化を改善すると考えらる。
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