研究課題
平成21年度は、妊娠の成立と維持における胎盤炎症反応系の生理的役割に関する研究として、トロホブラスト上に発現されているCD1d抗原の不育症における意義について検討した。抗リン脂質抗体(aPL)は不育症のリスクファクターである。aPLが関与する不育症では血液凝固異常を介するメカニズムが提唱されているが、β_2glycoprotein I(β_2GPI)依存性aPLの場合、aPLによるtrophoblastへの直接的な細胞傷害作用が不育症と関連するとの報告がある。そこでextravillous trophoblast(EVT)上のCD1dを介したβ_2GPI依存性aPLによる不育症メカニズムを解明することとした。ヒト絨毛癌由来の細胞株Jeg3にCD1d遺伝子を導入し、CD1dを恒常的に発現するtrophoblast株Jeg3/CD1dを樹立した。CD1d、posphatidylserine(PS)、β_2GPIの細胞表面存在をフローサイトメトリー法によって観察した。Jeg3/CD1dとJeg3に対して、抗CD1d抗体、抗β_2GPI抗体によるCD1d抗原の架橋反応を誘導し、炎症性サイトカインであるIL-12の発現をELISAおよび定量的RT-PCR法で観察した。フローサイトメトリー法では、Jeg3/CD1dの細胞表面にCD1d発現が認められ、その発現に一致してPS、β_2GPIの存在も認められた。抗CD1d抗体による架橋反応では、Jeg3/CD1dにおいてIL-12誘導能が確認されたが、Jeg3においては確認されなかった。それは抗CD1d抗体だけでなく、抗β_2GPI抗体でも認められた。すなわち、抗β_2GPI抗体は、PS-β_2GPI複合体と結合したtrophoblast表面のCD1dと間接的に結合した。この相互作用によってCD1dの架橋反応が起こり、CD1d^+ trophoblastからの強いIL-12誘導が起こると考えられた。妊娠初期に、EVT上のCD1dと母体抗β_2GPI依存性aPLが反応することにより過剰な炎症性反応が起こって、不育症が発症しうることが示された。
すべて 2009
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