研究課題
平成22年度は、妊娠の成立と維持における胎盤炎症反応系の生理的・病理的役割に関する研究として、トロホブラスト上に発現されているCD1d抗原と、脱落膜invariant natural killer T cell (iNKT)の相互作用につき、検討した。施設倫理委員会承認のもと、文書で周意を得た人工中絶症例から採取したヒト脱落膜から脱落膜リンパ球を分離し、iNKT細胞の増殖誘導剤αGalCerを7日間添加して、iNKTを誘導した。この細胞と、ヒト絨毛細胞JEG3にCD1d遺伝子を導入して樹立したJEG3/CD1dまたはJEG3とを共培養したところ、ヒト脱落膜iNKT細胞が、CD1dを介して絨毛細胞からの炎症性サイトカインinterleukin (IL)-12の産生を誘導することがわかった。この共培養系に、不育症原因として重要な抗β_2-glycoprotein I (GPI)抗体またはコントロールIgGを添加したところ、抗β_2GPI抗体添加群のIL12産生が、JEG/CD1d細胞では18時間後に、陰性コントロールIgG添加群の3倍にまで有意に増加したが、JEGでは抗β_2GPI抗体存在下でも、IL12産生は増加しなかった。Interferon (IFN)-γの産生については、抗β_2GPI抗体添加群と陰性コントロールIgG添加群との比較で、IL12と異なりJEG、JEG/CD1d両者において、抗β_2GPI抗体添加群で、18時間後にIFN-γの産生が増加する傾向にあったが、JEG/CD1d細胞においてのみ有意差を認めた。以上より、正常妊娠においては、トロホブラスト上のCD1dと脱落膜中のiNKTによりIL-12が一定量産生され、これにより誘導されるiNKTを介した炎症反応がトロホブラストの脱落膜浸潤を促進し、胎盤の形成に関与すると考えられた。しかし、抗β_2GPI抗体が存在すると、抗β_2GPI抗体によるCD1dの架橋反応で産生されたIu2が脱落膜iNKT細胞をさらに活性化させJNKT細胞からのIFN-γ分泌が増加してtrophoblast上のCD1d発現をより増加させ、さらにCD1d発現細胞からのIL12分泌を促進するというサイクルが必要以上に活性化され、これにより、母体胎児境界における局所の炎症が過剰となり、流産を引き起こすことが示唆された。本研究成果を英文雑誌に論文投稿中である。
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