研究概要 |
子宮内膜症は子宮内膜あるいはその類似組織が子宮外で発育増殖する疾患であり、生殖年齢女性に好発する。その発症機序は明らかではないが、2007年に子宮内膜症ではDNAのメチル化がその発症に関与しているとの報告がなされ、エピジェネティックな変化が注目されるようになった。我々はヒストンのアセチル化に注目し、培養子宮内膜症性嚢胞間質細胞を用いて、histone deacetylase inhibitor(HDACI)の効果について検討した。 その結果、子宮内膜症間質細胞におけるアセチル化ヒストンH3, H4は正常子宮内膜間質細胞に比して低いことが分かった。HDACIsにより、細胞増殖は抑制され、細胞周期の停止およびアポトーシスが誘導された。また、HDACIsにより、p16^<INK4a>, p21^<Waf1/Cip1>, p27^<Kip1>, cell cycle chekpoint kinase2(chk2)の発現が誘導され、B-cell lymphoma/leukemia(Bcl)-2およびBcl-X_Lの発現が抑制された。一方、HDACIsはp16^<INK4a>, p21^<Waf1/Cip1>, p27^<Kip1>, chk2のプロモーター領域においてヒストンH3, H4のアセチル化を誘導した。 本研究により、HDACIが子宮内膜症性嚢胞間質細胞の細胞増殖抑制、細胞周期の停止、apoptosisへの誘導に関与している可能性が示唆された。HDACIはヒストンのアセチル化を誘導するため、遺伝子の転写が活性化し、細胞増殖抑制、細胞周期の停止およびアポトーシス誘導を起こすと推測された。以上より、HDACIは子宮内膜症の新しい作用機序に基づく治療薬として有望と考えられる。
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