妊娠高血圧症腎症(PE)は、血管内皮機能障害とその病態形成との関係に注目が集まっている。PE妊婦では、妊娠初期から上腕動脈における血管内皮機能の減弱がみられ、PE発症予知因子との報告もある。また、妊娠初期に血管内皮機能低下がみられた妊婦は(1)PE発症のハイリスク群であること、(2)葉酸(FA)とL-アルギニン(LARG)慢性投与はPE発症を予防するか否かを検討した。妊娠初期(12~15週)に妊婦に同意を得て、上腕動脈においてshear stressによる内皮由来一酸化窒素(NO)産生による血管内皮機能を反映するとされるflow mediated vasodilatation (FMD)を測定した。FMD1分後の変化率(%FMD)が110%以下を血管内皮機能の低下とした。血管内皮機能の低下がみられた妊婦において、FA 0.8mg+LARG1g/日を妊娠16週から分娩まで投与した妊婦(n=12)をFL(+)群、FA+LARGを投与しなかった妊婦(n=13)をFL(-)群、%FMDが110%より大きいものを内皮機能正常妊婦(C群、n=13)とした。投与前、投与開始4週後、8週後、妊娠32週と分娩前にFMD、赤血球内LARGとFA濃度、血中soluble Flt 1 (sFlt 1)とcGMP濃度(NOのsecond messenger)を測定した。PE発症は、FL(+)群2名、FL(-)群8名、C群0名であった。FL(+)群の%FMDは、投与によりC群と同程度にまで回復した。FL(-)群は低値のままであった。FL(+)群の赤血球内FA値とLARG値は有意に増加した。PE発症妊婦(FA(+)群も含めて)においてLARG値は低下し、sFlt 1濃度はPE発症前に高値となった。しかし、血中cGMP濃度は、FA+LARG投与やPE発症に関わらず、変化しなかった。 この検討から、(1)妊娠初期から血管内皮機能の低下を認めた妊婦ではPEを高率に発症すること、(3)FA+LARG投与は、ハイリスク妊婦の血管内皮機能を改善し、PE発症を抑制する可能性が示唆された。
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