1. 予後因子の検討 羊水塞栓症は、致死的な周産期疾患であるが、どのような症例に高い死亡率を示すのかは未だ不明である。そのため今回、本症の死亡例と生存例の背景因子を統計学的に検討し、致死的因子を明らかにする。1992年から2006年までに登録された羊水塞栓症データ(IRB承認)135例(死亡例65例と生存例70例)を用い、患者背景因子、臨床所見や血液データ(血清Zn-CP1値、STN値、IL-8値、血清補体価)などの因子をSPSS15.0Jを用い統計学的に解析し、致死的リスクの高い因子を探索した。その結果、患者背景では経産婦、満期産、経膣分娩がp<0.05であり、血清マーカーでは血清STN値47U/mlとIL-8値100pg/ml以上が母体死亡の危険因子として抽出された。一方、臨床症状として、呼吸困難、心停止および意識消失が有意差を認めた。以上より、致死的羊水塞栓症の危険因子は、経産婦が満期で経膣分娩をする場合であり、肉眼的羊水混濁がなくても胎便中のムチンを多く含んでいる時に、致死率が高くなった。我々は本症候群をクラシック型、DIC型、アナフィラキシー型に分類して解析を進めている。今後は、これら予後因子から予後をみる予後スコアを作成する予定である。 2. 羊水特異的マーカー(特許申請中)の探索 羊水や胎便成分が、母体血中に流入し、何らかの反応が起こることにより羊水塞栓症が惹起される。そのため、母体旨血清中に少なく羊水中に多く含まれる羊水特異的マーカーを特定できれば、その物質(蛋白質)を血清学的診断方法に用いることが可能である。この蛋白質を、プロテオミクスとタンパクアレイを用いて同定した。(特許申請中)この物質が、臨床応用に可能かを見極めるため、母体より採取した血清、羊水および膣分泌物中の濃度を測定し、現在検討中である。既存の羊水塞栓症の血清マーカーとしてSialyl Tn (STN)が存在するが、感度が25.8%、特異度が97.3%であり、今後感度の良いマーカーの開発が必要である。現在検討中のマーカーに期待する。
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