研究概要 |
妊娠高血圧症候群(PIH)の病態形成には胎盤循環不全による絨毛の低酸素、酸化ストレスが関与する。絨毛における低酸素環境や酸化ストレスの増加に伴い、絨毛はFLT1やENGなどの抗血管増殖因子を多量に産生し、それが母体血中を高濃度で循環することで血管内皮障害を惹き起こし、臨床症状につながる。我々は、母体の血液中を循環する絨毛細胞の遺伝子発現を定量することで胎盤の機能的変化を評価する方法を開発してきた。昨年度は、妊娠15-20週の臨床症状がない妊婦から末梢血を採取し(n=683)、その後にPIHを発症した症例(n=62)としなかった症例で、遺伝子発現量を検討した。その結果、FLT1、ENGなどはPIHをその後に発症した群で高値を、逆に、P1GFとHO-1は低値を示した。ROC curveを用いてPIHの発症予知の可能性について解析したところ、ENG及び、FLT1が特に優れたPIHの予知マーカーであり、ENG、FLT1、P1GFと初産か否かの4因子の組み合わせで、PIHの66%が、疑陽性率10%で予知可能であることを示した。今年度は、より早期の妊娠10-14週の妊婦で検討した。臨床症状のない妊婦(中央値12週3日)を対象に採血を行った。後にPIHを発症したPIH群11例と正常に経過したコントロール88例を対象にした。 PIH群の各遺伝子発現量のMoM値(SD)は、FLT1:2.18(0.36),ENG:3.26(1.16)、P1GF:0.64(1.04)などと対照と比し、有意な差を示した。PIH発症予知についてROCを描いて検討した結果、AUC(SD)は、FLT1で0.872(0.064)、ENGで0.966(0.019)と抗血管増殖因子が優れた発症予知マーカーであることが分かった。さらに、それらの組み合わせで、5%疑陽性率水準で72.3%のPIH発症予知が可能であった。 母体血細胞成分中RNAを評価することで、いままで"Black Box"であった胎盤の機能的な変化が妊娠初期からreal-timeにモニターでき、その応用としてPIHの発症予知が可能と考えられた。
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