研究課題
基盤研究(C)
妊娠高血圧症候群(PIH)の病態形成には胎盤循環不全による絨毛の低酸素、酸化ストレスが関与する。低酸素負荷、酸化ストレスを受けた妊娠初期の絨毛細胞は、FLT1やENGなどの抗血管増殖因子の産生を増やし、それが絨毛間腔に分泌され、母体循環中で増加することが母体血管内皮障害の原因となり、PIHの臨床症状の発現につながると考えられている。そこで、まず、我々は、妊娠11週に絨毛染色体検査を行った症例で、その後にPIHを発症する症例の絨毛細胞と正常に経過する絨毛細胞で遺伝子発現量に差はないかを検討した。結果は、妊娠11週の段階で正常妊娠例に比べてFLT1、endoglin、VEGF、TGF-β1の遺伝子発現量が有意に上昇していた。一方、PlGF、heme oxygenase-1 (HO-1)、superoxide dismutase (SOD)の遺伝子発現量は有意に低下しており、胎盤形成期の妊娠11週にその後にPIHを発症する症例の胎盤にすでにその病態が形成されていることを確認した。次に、我々は、母体血を用いて胎盤の機能的変化を評価する方法を開発しているが、その方法を用いた妊娠高血圧症候群の発症予知の可能性について検討を行った。最初に、妊娠15-20週の臨床症状がない妊婦から末梢血を採取し(n=683)、その後にPIHを発症した症例(n=62)としなかった症例で、母体血中cell-free RNA、cellular RNAから血管増殖因子関連遺伝子であるFLT1、ENG、TGF-β1、PlGFなどの遺伝子発現量を定量し、発症予知の可能性を検討した。その結果、cell-free RNAでは7種類の遺伝子発現量の組み合わせで妊娠高血圧症候群の84%が、疑陽性率5%で予知できることが分かった。さらに、cellular RNAにおいてもほぼ同等な結果を得た。そこで、絨毛で変化を認めた妊娠11週頃の母体血でも同様な検討が可能かを検討した。その結果、FLT1、ENG、TGF-β1発現はコントロールに比較し高値、PlGF、placenta specific-13がコントロールと比較し低値と、有意な変化を示した。さらに、PIH発症予知についてROCを描いて検討した結果、AUC(SD)は、FLT1で0.872(0.064)、ENGで0.966 (0.019)と抗血管増殖因子が特に優れた発症予知マーカーであり、さらに、それらの組み合わせで、5%疑陽性率水準で72.3%のPIH発症予知が可能なことが分かった。これらのことから、母体血中RNAを分析することで、いままで"Black Box"であった胎盤の機能的な変化がreal-timeにモニターできることを示した。また、本法は妊娠高血圧症候群やその他の妊娠合併症の病態形成メカニズムの研究にも応用できることが示された。
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