本研究は、若年女性がん患者における治療寛解後の女性としての生活の質(QOL)向上を志向した基礎的研究の遂行がその全体構想となっている。具体的には霊長類であるカニクイザルを用いて、ヒトへの臨床応用を目指したより効率の高い卵巣組織凍結法の確立、より効率の高い卵巣組織自家移植法の確立、より安全な凍結法と移植法の確立を目的としている。 当該年度に実施した研究成果は以下の如くである。 1カニクイザルを用いたガラス化凍結保存法後の卵巣自家移植:我々はIVFなんばクリニック、近畿大学生物理工学部、和歌山ケアリー研究所との共同研究で、カニクイザルを用いて卵巣組織凍結・融解、移植に関する基礎的研究を進めてきた結果、独自に確立した移植法により、世界で初めて霊長類における卵巣組織凍結後(緩慢凍結法とガラス化保存法)の移植実験に成功している。今回は、これまでの卵巣組織小切片化による自家移植の実験で得られた成果から、卵巣組織片を1cm×1cm×0.5cmへと大きくし、子宮漿膜や大網に移植を行った。現在、移植後数ヶ月経過しているがホルモン値の回復を確認中である。通常は移植後3-6ヶ月経過した後にホルモン値の回復が認められる。 2ラット用いた新たな凍結デバイスを用いた至適ガラス化凍結保存法の開発:卵巣組織片を1cm×1cm×0.5cmへと大きくすることで、より多くの原始卵胞を移植することができるように開発された凍結デバイスをカニクイザルでの実験で応用する目的で、まずは小動物であるラットを購入し、ラットで新デバイスを用いたガラス化凍結保存法の実験を施行した。その結果、発情周期を確認することによる自家移植の成功を確認した。
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