若年女性がん患者の治療寛解後の女性としてのQOL向上を志向して、霊長類であるカニクイザルを用いて、ヒトへの臨床応用を目指したより効率の高い卵巣組織凍結法の確立、より効率の高い卵巣組織自家移植法の確立、より安全な凍結法と移植法の確立を目的として研究を遂行した。当該年度に実施した研究成果は以下の如くである。 1. ガラス化凍結保存卵巣を用いた自家移植個体からの採卵→顕微授精 新たに開発したCryosupportを用いて長急速ガラス化法にて凍結保存を行った卵巣組織片を融解し移植した結果、3頭中3頭のカニクイザルでホルモン周期の回復はそれぞれ、移植後172日目、131日目そして117日目に確認された。なお、異所性移植部位は後腹膜、大網、子宮漿膜そして卵管間膜であった。さらに、2頭のカニクイザルより3回の採卵で9個の採卵に成功し、顕微授精によって6個受精に至った。最終的には4個の胚を凍結することに成功した。 2. ガラス化凍結保存卵巣を用いた自家移植個体からの受精卵の移植 最終的に受精し凍結保存に至った4個の胚の中から、2個代理母への胚移植を施行したが妊娠には至らなかった。 3. 画像診断法を用いたガラス化凍結保存卵巣を用いた自家移植個体の移植部位の観察 ホルモン周期の回復を確認することが可能であったガラス化凍結保存卵巣を用いた自家移植個体に対して、造影有りCT検査を行い、大網、後腹膜そして子宮漿膜などの自家移植部位に存在する卵巣組織片への血流の有無・状態を観察した。その結果、子宮右側の卵管間膜と左下腹部に位置する大網内に存在する異所性移植卵巣組織片に対する造影増強効果が示された。そして、この2つの異所性移植卵巣組織片には、発育卵胞の像が認められた。以上の結果から、異所性にガラス化凍結保存卵巣を移植したその移植片への新たな血流の再開とその供給動脈の存在が確認された。
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