PPARαリガンドであるクロフィブリン酸の卵巣癌に対する抗腫瘍効果は、プロスタグランディンE_2(PGE_2)の変換酵素であるCarbonyl reductase(CR)を腫瘍内で増加させ、減少したPGE_2のため血管新生抑制、アポトーシス誘導が起こることによって達成されるが、この研究課題ではCRの遺伝子を卵巣癌細胞に導入し、その腫瘍形成過程を調べた。CR遺伝子を導入された卵巣癌細胞による腫瘍はある時点までは増殖するが、その後は自然に退縮していった。CR導入群の腫瘍はネクローシスと炎症性細胞浸潤が顕著であった。さらにアポトーシス細胞の出現頻度はコントロール群に比べCR導入群で有意に増加していた。マクロファージなどの貪食細胞を引き寄せるEat-me-signalであるmilk fat globule EGF factor 8(MFG-E8)はCR導入群で明らかに増加していた。MFG-E8はCR導入群の腫瘍細胞質内あるいは間質細胞内に広く分布し、マクロファージがアポトーシス細胞を貪食している像が蛍光二重染色で確認された。腫瘍組織内のVEGF発現はコントロール群に比べCR導入群で減少していた。以上の結果からCR導入細胞の腫瘍内ではアポトーシス細胞の発現増加と血管新生の抑制が引き起こされることが示唆された。さらに、増加したMFG-E8によって引き寄せられた食食細胞とアポトーシス細胞との間のファゴサイトーシスのためのネクローシスの増加がCR導入細胞の腫瘍が自然退縮する機序と考えられた。
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