我々は、すでに卵巣がん、子宮体がんの治療開始前静脈血栓塞栓症(VTE)の頻度、リスク因子について解析を行い、英文紙に発表をしてきた。平成21年度は婦人科の主な悪性腫瘍の残りの1つである子宮頸がんについてVTEの頻度とリスク因子を解析するためのデータベース作成を行ってきた。データベースは昨年度中にほぼ完成し、解析作業に入っており、この成果は平成22年4.月に行われる第62回日本産科婦人科学会において高得点演題に選択され、発表の予定となっている。子宮頸がんにおける治療開始前のVTEの発見頻度は約5%で体がんの約10%、卵巣がんの約25%に比較し低頻度ではあるものの対象とした子宮頸部上皮内病変患者では0%(0/90)であり、治療開始前にVTEの検索は治療開始後の重篤なVTE発症の予防に有用である。子宮頸がんの治療開始前VTEのリスク因子は60歳以上、IV期以上、子宮頸部病変45mm以上が独立した有意な因子として抽出されている。 この他、子宮体がん、卵巣がんについてもデータベースのアップデートを行い、この結果の一部も日本産科婦人科学会のポスターセッションで発表予定である。3つのがんについてのまとまった発表は平成22年7月9日に第48回婦人科腫瘍学会のワークショップにおいて行われることとなっている。本研究は治療開始前のVTEについてのものであるが、研究過程で手術後の症候性VTEの発症が術後0-3日目と術後8日目を過ぎてからの2峰性になっていることが分かった。術後8日目以降の症候性VTE発症の予防には術後長期間(14日間程度以上)の抗凝固療法が必要と考えられるが、このデータについては更に平成22年度に解析を重ねる予定である。 婦人科悪性腫瘍の治療開始前VTEの発生頻度と危険因子の系統的な解析はこの研究が世界的にも初めてのものであり、各種文献にも引用され臨床的にもきわめて意義深いものになっている。
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