術前VTEの頻度については、2004年11月から2009年7月(期間A)に初回治療を行った子宮頸がん272名、体がん243名、卵巣がん165名の解析が終了し、頸がんは4.8%、体がんは11.1%、卵巣がんは24.8%であった。卵巣がんは頸がん、体がんより頻度が高く(p<0.001)、体がんは頸がんより頻度が高かった(p=0.007)。多変量解析では、頸がんは腫瘍径50mm以上と進行期4期、体がんは類内膜腺癌以外の組織型と画像診断による3期以上、卵巣がんは明細胞腺癌と画像診断による大量腹水が独立した有意な危険因子(RF)であった。RFは原発巣ごとの組織型、がんの進展様式、大量腹水を伴いやすいかなどの相違により、異なった因子が抽出されたと考えられる。この内容の論文を現在執筆中である。 期間Aにおいては術後の予防的抗凝固療法の対象は限定的で期間も3日間程度と短期であったが、2009年8月以降は術前VTE患者とBMIが28以上、リンパ節郭清施行者に術後8-24時間から低分子量ヘパリン(LMWH)を14日間か退院日まで投与する予防法を開始した。2010年9月まで(期間B)に頸癌67名、体癌72名、卵巣がん61名が初回治療を受け、頸癌は7.5%、体癌は11.1%、卵巣癌は19.7%に治療開始前VTEを発見し、これは期間Aにおける頻度と差はなかった。期間Aの開腹手術患者は527名で術後症候性VTE患者は13名(2.5%)であったのに対し、期間Bでは開腹手術166名に術後症候性VTEの発生はなかった(0%)。術前にVTEを検索、発見時には適切な対応を行うことと、術後選択的にLMWHを長期間投与する事は術後症候性VTE予防に有効である可能性が高いデータが出つつあり、2011-2012年度に症例を蓄積し、婦人科悪性腫瘍手術後の致命的なVTE顕性化予防法の確立を目指す目処がつきつつある。
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